朝井リョウ『何者』を読んだ感想(できる限りネタバレなし)
『正欲』の次に読んで、視点の仕掛けにやられた話
はじめに(あらすじをざっくり)
就活中の大学生たちが、自己分析したり、エントリーしたり、面接に行ったりしながら、それぞれの「見せたい自分」と「本当の自分」のあいだで揺れる話です。
舞台としてはかなり日常的で、派手な事件が起こるタイプではないのですが、だからこそ会話や空気感が妙にリアル。
SNSとの距離感とか、他人の言葉の受け取り方とか、就活そのものより人間関係のほうが刺さる作品でした。
読んだきっかけ
先に読んだ『正欲』がかなり良くて、同じ朝井リョウ作品として次に手に取りました。
正直、読み始めるまでは「就活の話かあ」という印象で、少し読むのに億劫になっていました。
でも実際は、就活の話というより、もっと人間の内側に寄った話でした。
面白かったポイント
この本のいちばん面白いところは、2/3を過ぎたあたりから、見えていた景色がガラッと変わることだと思います。
それまでの前提がひっくり返されて、同じ出来事の輪郭が急に違って見えてくる。
前半は、拓人という主人公の目線で物語が進みます。
就活仲間との何気ない日常が続くんですが、この仲間たちがそれぞれ結構クセ強めで、読者の自分も自然と拓人側に寄って読んでしまう。
「わかるわかる」って思いながら読み進めていたぶん、後半の展開に鳥肌が立ちます。
特に前半は、会話のちょっとしたトーンや、相手への距離の取り方がうまくて、
「この人ちょっと苦手かも」「この空気しんどい」みたいな感覚が、かなりリアルに伝わってきます。
大きな事件がなくても読み進められるのは、この日常描写の強さがあるからだと思いました。
後半の1/3で一気に展開が変わる。
拓人を通して物語を“俯瞰しているつもり”だった自分ごと巻き込まれて、読者側の見方まで問われる感覚になります。
「自分は他人をどれだけ勝手に解釈してるんだろう」と、ちょっと反省もしました。
派手などんでん返しというより、
言葉・視点・自己演出みたいな、日常にあるものだけでここまで鋭くできるのがすごい。
読後に残ったこと
この作品を読んで改めて思ったのは、
「人は自分が見たいものしか見ていない」ってことでした。
SNSでも日常でも、相手の発信を勝手に意味づけして、わかった気になってしまう。
この本はその危うさを、説教くさくなく突きつけてくる感じがあります。
特に、自分でも驚いたのが、ギンジという人物に対する見方でした。
物語の中ではほとんど登場せず、主人公の拓人視点でしか語られない存在なのに、いつの間にか自分の中で「痛い人」と決めつけてしまっていたんです。
SNSやネットから拾えるわずかな情報だけで、「この人はこういう人間だ」と判断してしまう。
その読み方をしていたのは、作中の登場人物だけじゃなく、読者の自分も同じだったんだなと気づいて反省しました。
どんな人におすすめか
- 伏線を回収するというより、視点の変化でゾクッとする作品が好きな人
- 読み終わったあとに誰かと感想を話したくなる本を探している人
まとめ
『何者』は、面白いだけじゃなく、読んだあとに考えさせられるタイプの小説でした。
前半の何気ないやり取りが、後半で別の視点を持って見えてくる構成が本当にうまいです。
もう一度最初から読んでみようと思います。
就活ものだと思って避けている人にも食わず嫌いせずに読んでもらいたいです。
ネタバレなしで言える範囲だと、
「就活小説」というラベルだけでスルーするのはもったいない、というのがいちばん伝えたいこと。
気になっている人は、なるべく事前情報を入れずに読むのがおすすめです。
総評
総評:★★★★★(5/5)
- 読みやすさ: ★★★★★
- 面白さ: ★★★★★
- 読後の余韻: ★★★★★
- 共感しやすさ: ★★★★★
- 展開: ★★★★★